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大阪家庭裁判所 昭和39年(家)4456号 審判

申立人 川田次郎(仮名)

事件本人 戸川節子(仮名)

主文

事件本人の親権者を申立人と定める。

理由

筆頭者申立人および筆頭者事件本人の各戸籍謄本の記載ならびに申立人に対する審問の結果によると、事件本人は昭和三四年一二月一九日申立人と戸川カヨコとの間に出生した非嫡出の子であつて、戸川カヨコが昭和三五年八月八日死亡してから申立人の実母の許で養育されてきたところ、申立人は昭和三八年三月現在の妻昌子と婚姻して家庭的に安定したので、昭和三九年五月事件本人を引取り、現在は妻とともに事件本人に対し適切な監護養育を行つていること、申立人は昭和三九年八月二六日事件本人を認知したこと、事件本人の親権者母戸川カヨコ死亡後、いまだ後見人は選任されていないこと、が認められる。

ところで未成年者に対して親権を行うものがなくなつたときは民法第八三八条により後見が開始するので、父または母があつても親権者の指定すべきではなく、後見人の選任をしなければならないとする考え方もあるが、未成年者の後見が親権の延長であり、両者を区別してまず第一次的には親権を予定している民法の趣旨からすれば、父または母の子に対する監護養育はできるかぎり親権者として行使させるべきであるから、後見が開始している場合であつても、後見人が選任されるまでは親権者の指定ができないというものではないと解する。そこで、親権者母死亡後、子を認知した父がいる場合に親権者の指定をすることができるかどうか考えるに、民法第八一九条第四項、第五項の「協議することができないとき」とは父母がともに生存していて協議できない場合を予定した規定であるが、上記の場合にもこの規定を類推適用し、家庭裁判所が親権者の指定をすることができるものと解するのが相当である。もつとも、その父が親権者として不適当と判断されるときは、親権者の指定をせず、他に後見人を選任すべきである。

これを本件についてみるに、上記認定事実によると、親権者であつた母戸川カヨコが死亡し、その後申立人は事件本人を認知したが親権者を定めるにつき協議ができない場合であり、かつ事件本人には未だ後見人が選任されていないところ、申立人は現に事件本人を適切に監護養育しているのであるから、申立人を事件本人の親権者と定めることを相当と認め、本件申立を認容して、主文のとおり審判する。

(家事審判官 西尾太郎)

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